その他のこころの病気
こころのクリニック
SAD(社会不安障害あるいは社交不安障害 Social Anxiety Disorder)について説明します。


2006年3月に、「SADの講演会」で、「SADの権威」でいらっしゃる2人の精神科医の先生のお話をうかがってきました。
そして、その日の新聞に載っていた、SAD(社会不安障害)の広告を見ました。

こんな内容です。

「引っ込み思案」に見えて、全く違う。
「恥ずかしがり」に見えて、全く違う。
「人間ぎらい」に見えて、全く違う。
「性格の問題」に見えて、全く違う。

それが、SAD(社会不安障害)

というものでした。
そして、お二人の先生のお話では、「SADについてはまだまだ分かっていないところが多く、2〜3年間も治療していてもなかなか良くならないケースが多い。」ということでした。今回「SADの適応」が認められたフルボキサミン(商品名ルボックス、デプロメール)があまり効かないようなのです。とても歯切れの悪い「講演会」でした。わたしの頭が悪いのかもしれませんが、お二人の先生が一生懸命説明すればするほど、何のことだか分からなくなってしまいます。
けれども、お二人の先生がかかげた症例は、わたしが理解したかぎりでは、どれもほとんどが「統合失調症」の症例なのです。抗うつ薬が効くわけがありません。
そもそも、「SAD(社会不安障害)」という診断名がまず存在していたわけです。というのも、DSM−W−TR(アメリカ精神医学会が定めた診断基準)と、それの前のヴァージョンであるDSM−Vに載っていた「診断名」なのです。
簡単にいうと、日本の精神科医たちがもともと「対人恐怖症」と呼んでいた病気にとてもよく似た病気なのです。
DSM−V、DSM−Wができて、そのなかに残念ながら「対人恐怖症」はなかったのですが、「SAD」があったのです。

それでは、ということでSADを研究された権威ある先生たちにして、左記に述べたとおりの治療成績なのです。ソルベイ製薬(フルボキサミンを開発したフランスの製薬会社)、アステラス製薬(日本においてルボックスという商品名でフルボキサミンを発売している)、そして明治製菓(日本においてデプロメールという商品名でフルボキサミンを発売している)は大丈夫なんでしょうか?

さて、新聞広告は続きます。以下のような「質問表」が、かかげられています。

この1ヶ月間で、人から見られたり、注目を浴びたりすることに恐怖や戸惑いを感じたり、恥をかきそうな状況を恐れたりしましたか? たとえば、人前で食事をしたり、誰かに見られているところで字を書いたりといった「社会的状況」に不安を覚えましたか?
     ↓ (はい)
その恐怖について、自分でも恐がりすぎだとか、ただごとではないというふうに感じていますか?
     ↓ (はい)
その「社会的状況」は、わざわざ避けたり、あるいはじっと耐え忍ばなければならないほど恐いものでしたか?
     ↓ (はい)
その恐怖により、あなたの普段の仕事や社会生活が妨げられていたり、あるいはそれにより非常な苦痛を感じていますか?
     ↓ (はい)
SAD(社会不安障害)の可能性があります。

というものです。
この質問表に当てはまる人の大部分は、わたしの考えでは「統合失調症」です。事実、お二人の先生が講演会であげられていた症例は、ほとんど前例が「自殺」の願望や未遂がありました。わたしが以前から説明しているように、それは「うつ病」の特徴、あるいは「SAD」の特徴ではなくて、まさに「統合失調症」の特徴なのです。抗うつ薬が効くわけがありません。
しかし、抗精神病薬(たとえば商品名でいうと、ルーラン、セロクエル、リスパダールなど)を服用すると、短期間で患者さん自身が驚くほどの効果をあらわします。
わたしのホームページのなかの「うつ病と統合失調症の比較表」を参照してみてください。(ただし、ここでいう統合失調症とは、DSM−W−TRでいうところの「統合失調症」とは異なります。ここでいう統合失調症は「抗精神病薬が効果をあらわすこころの病気」で、後述のような質問表で簡単なスクリーニングはできると思います。)

わたしの質問表を試してみましょう。

周りのペースが速すぎて、「自分はついていけない」「取り残されてしまう」「置いてきぼりを食らってしまう」などと感じていたり、周りのペースに巻きこまれていて、「自分のペースで生活できない」と感じ続けていたりしたことはありませんか?
     ↓(はい)
自分の将来が見通せなくなってきていませんか?
     ↓(はい)
最近、やる気のなさを感じたり、まわりとうまくコミュニケーションをとれないと感じたり、情緒不安定になっている(イライラする。不安、憂うつ、気分の落ち込みが強い。「消えてなくなりたい」「逃げ出してしまいたい」などと考えることが多い。)と感じたりしていませんか?
     ↓(はい)
あなたは、統合失調症です。

ここでいう統合失調症は、抗精神病薬(たとえば商品名でいうと、ルーラン、リスパダール、セロクエルなど)でとてもよくなります。2〜3年間も待たなくても、これらの抗精神病薬を服用する治療を受けると、1週間後には「気分が明るくなった。」「考えが前向きになってきた。」「消えたい気持ちがなくなった。」「周りのペースに振り回され、パニくることがなくなってきた。」「気持ちがこんなに落ち着くなんて…」などと感じるはずです。
「SAD」のケースの多くは、統合失調症に当てはまるでしょう。ですから、ルボックス、デプロメールは効きません。

さて、上の質問表で、「わたしは先行きの不安は感じません」「やる気のなさは感じません」「わたしはパニくりません」という場合、次の質問に答えてみてください。

周囲の期待に応えようとして、つい頑張ってしまう。期待されなくても当然のこととして頑張る。
     ↓(はい)
頼まれたら、(ゆとりのあるかぎりは)つい引き受けてしまい、抱え込んでしまうことが多い。
     ↓(はい)
自分が場を盛り上げなければと考えて、つい気負ってしまう。
テンションが高くなることが多いと感じる。
     ↓(はい)
最近、気持ちにゆとりがなくなり、「いっぱいいっぱいの状態」になっていると感じることが多い。
それでも、つい頑張ってしまい、気負いが抜けない。
     ↓(はい)
あなたは、うつ病です。(注. 躁うつ病ではありません。)

ここでいう「うつ病」は、DSM−W−TRでいうところの「うつ病(いろいろな種類の気分障害・感情障害)」のことではありません。
ここでいう「うつ病」は、抗うつ薬がとてもよく効くこころの病気のことです。SNRI(商品名でいうと、トレドミン)、SSRI(商品名でいうと、パキシル、デプロメール、ルボックス)が効くタイプの「うつ病」のことです。そして、「人に気を遣ったり、気負ったり、いつも気を張っている」生活習慣を変えることによって良くなる、「生活習慣病」としての「うつ病」なのです。

そして、結論をいうと、「SAD」の多くが統合失調症(抗精神病薬が効きます。ちなみに、CT検査をすると特徴的な所見が得られるので、診断がつけやすいです。)で、 残りの一部はうつ病(抗うつ薬がよく効きますし、ある種の生活習慣病なので、生活習慣を変える練習をすると良くなっていきます。) であるということが分かります。

人為的に作り上げた「診断基準」に現実の患者さんを当てはめていってしまうと、「専門家」「権威」と呼ばれる人たちにもうまく説明のつけられない、ということは、患者さん自身も「自分の病気の実態はいったい何なのかサッパリ分からない」という状況が出来上がっていってしまうのです。
別の観点から言うと、抗うつ薬が効くときもあるし効かないこともあるし、抗精神病薬が効くこともあるし効かないこともあるし…というチンプンカンプンな状況が、生まれてしまいます。あるいは、なぜか前頭葉が萎縮していたり萎縮していなかったり…とか。

でも、新聞広告を見て、自分がSADだと思った皆さん、そして、わたしのブログ記事をみて、「統合失調症」だと思った皆さん、ぜひ精神科を受診してみてください。
就寝前に、ルーラン4〜8mg、デパス0.5mgを処方してもらってみてください。あるいは、ルーランの代わりにリスパダール0.5〜1mg、あるいは、セロクエル25〜50mgを処方してもらい、デパスと一緒に服用してみてください。
(薬の効き方、副作用の出方には個人差があります。とくにお薬を飲んで気になるのは副作用ですが、ルーランもリスパダールもセロクエルも、非定型抗精神病薬という種類のお薬で、これらはときに眠気やだるさやボーっとして頭が重くなる副作用が出ることがありますが、副作用が出たとしても就寝前に飲めば、朝起きた後せいぜい半日続くだけなので、副作用が出たらその薬は中止して、他剤に変更してもらえばいいのです。
また、上にあげた量の少ないほうから飲み始めてみるといいでしょう。たとえば、ルーランなら4mgから、というように。)
あなたが、「SAD」に(ほんとうは統合失調症に)長年苦しんでいたり、悩んでいたりしていたとしても、お薬を飲むことによって「自分が(良い意味で)ものすごく変わっていく」ことを実感されると思います。前向きに生きられるようになり、やる気が生まれますし、浮き足だたなくなり、消えてなくなりたい気持ちがなくなります。





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